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江戸時代にも存在した蒸発事件〜松前屋市兵衛の行方

 久しぶりの更新です。
 前回は押入れに入ってそのまま蒸発してしまった母親の記事でしたが、今回も俗にいう”神隠し”の話を。意外とこの手の話は昔から多いのです。

 『江戸の怪〜八百八町 謎の事件簿〜』(中江克己著 祥伝社黄金文庫)からの要約です。



 

 江戸の牛込(現新宿区)に住む武家の隠居、東隋舎(あずまずいしゃ)が天保十年(1839年)に書いた『古今雑談思出草紙(こきんぞうだんおもいでそうし)』のなかにこんな出来事が紹介されている。

 寛延から宝暦(1751〜1763)の頃、近江国八幡(滋賀県近衛八幡市)で反物を扱い成功をしている松前屋市兵衛という商人がいた。


 

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 ある夜のこと、市兵衛は厠へ用を足しにいった。暗いので下女が明かりを持ち、厠の前で待っていたがいつまでたっても出てこない。

 市兵衛の妻は部屋にいたが、あまりにも時間がかかりすぎることに。不審を抱いた。夫が女好きなので、二人で怪しいことをしているのではないかと疑ったのである。
 急いで厠に来てみると、下女が厠の外で明かりを持ち、不安そうな顔をして立っていた。

「どこか、具合でも悪いのですか」

 妻は外から声をかけてみたが返事がない。もしや厠のなかで倒れていたら大変と、厠の戸を急いで開けてみた。
 ところが厠になかには市兵衛がいない。

 家中探してみても市兵衛は見つからない。裕福な商屋の主が消えたとなっては一大事である。惜しみなく金も使い、行方を探してみたが手がかりが一切見つからない。
 
 しかし商売を止める訳にもいかず、相続するものがいない市兵衛の代りとして、妻は新しく婿をとり、家を相続させることになった。

 もっとも市兵衛が死んだものやら、どこかで生きているのやら、まったくわからない。相続の話が決まった以上、けじめをつけないといけないので、市兵衛が行方不明になった日を命日と定め、ねんごろに弔うことにした。

 それから二十年の歳月が流れた。

 ある日の夜、厠のなかから

「おーい、おーい」

 と、人を呼ぶ声がする。聞き覚えのある声だった。
 妻をはじめ、家の者たちは怪しみ、こわごわ厠に近づき、戸を開けた。
 妻は驚いた。

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 なんと、そこには二十年前に消えた市兵衛が、あの時とまったく同じ寝間着姿で座っていたのである。
 二十年ぶりに姿を現した市兵衛を見て、妻は取り乱した。

「いったい、どうして断りもなく、姿を消してしまったのさ」
「いままでどこにいっていたのよ」

 妻は次々と問いただしたが、市兵衛はぼんやりして、顔を振るだけだった。やっと口を開いたが、それも

「ああ、腹が減った」

といっただけである。妻は急いで支度をし、市兵衛に食事を与えた。

 しばらくすると、奇怪なことに着ていた寝間着が一瞬のうちに消え、市兵衛は真っ裸になってしまった。
 妻はあわてて着物を着せ、薬を飲ませるなどのして世話を焼いた。ところが、なにを聞いても、昔の事はまったく覚えていなかったという。

 妻は再婚しているのだから、いまさら一緒に暮らせるわけがない。市兵衛は、病気や痛み止めなどの呪い師をして暮らすようになった。

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 という話です。この話は、江戸奉行を務めた根岸鎮衛(ねぎしやすもり)が書いた『耳袋』にも紹介されているので、当時は広く伝わっていたかもしれない話です。

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