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現代版「遠野物語」山奥の中の屋敷

 「隠れ里伝説」という話が日本各地にはあります。
 日本の民話、伝説にみられる一種の仙郷で、猟師が深い山中に迷い込み、偶然たどり着いたとか、山中で機織りや米をつく音が聞こえたなどという話なのですが、実際に平家谷、平家の隠れ里と伝えられる集落が日本各地には存在しています。

『遠野物語』にもこの隠れ里についての話が幾つか載っています。

 貧しい家の女性が小川に沿って"ふき"を採っていく内に、道に迷って谷の奥深くにまで分け入り、豪勢な御殿を発見して中に入るのですが、人の姿が見えないので怖くなり逃げ出します。
 後日、小川の上流から赤い椀が流れて来て、その椀を使うと穀物をいくら使っても減らず、その家はやがて村一番の金持ちになったという話です。
 当地では山中のこの種の家をマヨヒガと呼び、この話の女性は、少しく魯鈍(ろどん)で無欲にて何物も盗まなかったの椀が流れてきて富を得たという話なのです。
 この伝説の背景が気になりますが、現代版の「遠野物語」ともいうべき話が、前回取り上げた「黄昏綺譚」に紹介されていましたので紹介します。


青森県の山奥の中の屋敷

 病気で入院していた某は、同室の患者から奇妙な話を聞いた。相手は八十に間もなく手が届く老人で、若い頃は青森県の営林署に務めていたという。
 老人は長い間だれにも口にしたことがない秘密を抱えていた。だが、自分の寿命が長くないと察して、たまたま同室となった某に打ち明けるつもりになったのである。

 老人は三十代の若い頃に仕事で山に踏み込んで道に迷ってしまった。地図を作る仕事だったのでその一帯はまだ白紙の状態であった。
 それでも山歩きには自信がある。川に沿って下れば必ず麓に出ることができると信じて歩いていたのだが、とうとう夕方になってしまった。

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 途方に暮れていた彼に目の前に円池が見えた。自然の池とは思えない。人の手が加えられている。池の周りを丹念に調べたら人の足跡が見つかった。彼は恐ろしくなった。人などとても踏み込めないような深い山の中なのである。
 それでも彼は勇気を取り戻して足跡を辿った。少し歩いたらとてつもなく巨大な屋敷にぶち当たった。中から大勢の笑い声が聞こえた。あり得ない。地図さえ作成できないほどの山奥なのだ。
 躊躇していると彼は暗がりから飛び出た何人かに取り押さえられてしまった。殺される!と怯えた彼だったが、必死で自分の身分と山に迷い込んだ事情を訴えた。囲んでいた男たちは彼を屋敷へ連れ込んだ。ものすごく古く、立派な造りの屋敷である。土間にたくさんの女や子どもたちが集まった。彼を物珍しそうな顔で見ている。しかし、彼は逆に安心した。土間にはゴムの靴や市販の傘などが並べられていたからだ。町との行き来がある証拠だ。
 
 その屋敷の主人らしき老人が姿をみせた。また彼は事情を詳しく説明した。彼は許されて屋敷の広間に通された。若者や年配の男たちが膳を並べて食事の最中だった。彼にも膳が出された。ほとんどは山菜料理で、わずかに兎の肉が添えられている。注がれた酒はもちろんどぶろくである。彼はそれとはなく、なぜこんな山の中に大勢の人間がいるのかと質した。だれもそれには応じてくれなかった。明日には町に戻してやるが、と主人が彼を咎めるような口調で言った。絶対に自分たちと会ったことを口外してはならない。お前の勤めてる営林署には自分たちの目がいつも光っている。もし約束を破ってだれかに今夜のことを話したらそうなるか責任がとれない、と主人は結んだ。居並ぶ男たちも大きく頷いて彼を睨んだ。彼は誓って他人には話さないと約束した。主人の後ろの巨大な床の間には古い鎧と槍が何本も飾られていた。

 翌日の朝早く、彼は二人の男に叩き起こされた。町まで案内すると言う。彼は二人に従って屋敷を後にした。深い山を二人はわざと遠回りして歩いた。彼に道を覚えらないための用心と思えた。五時間ほど歩いてようやく彼は見覚えのある場所に達した。二人も承知らしく彼をその場に置き去りにして山に戻っていった。
 彼はそれから怯えて暮らした。営林署の中にさえ、連中の仲間が居るような気がしてならない。
 結局彼は営林署を辞めて仙台へ逃れた。不思議な屋敷のことは約束通りだれにも言わないで過ごした。そして病院で寝たきりになった現在、彼の頭を占めているのは五十年前に訪れた不思議な屋敷のことである。この歳になるとさほどの怖さはない。いったいあの男たちはなんであったのか?もう一度だけあの屋敷に行きたいものだと彼は話を結んだ。

 聞かされた某は真実のことかどうか疑った。だが老人が若い頃営林署に確かに勤務していたことを某は老人の死後に確認した。
 某とは私の親しい友人のことである。

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 個人的には大好きな話なのです。
 
鎧や槍があるという話から平家などの落ち武者だったりした可能性もあります。実際にどこにあったのかとても気になりますね。五十年前の話ということですから昭和の始めの頃の出来事なのでしょう。そんな時代になっても、なぜ自分たちの存在を俗世に知られないように守っているのでしょうか。いずれにせよ、営林署にも、自分たちの目があって秘密を守りぬいているというくだりがとても怖く感じます。

 調べたところ、青森県には、川内営林署、大畑営林署、横浜営林署、田名部営林署(むつ営林署)と存在していましたので、その方はいずれかの営林署に勤めていたのでしょうか。
 その隠れ里の屋敷が今も存在するなら訪れみたいものです。

 

 青森は、キリストの墓がある新郷村や八甲田山の雪中行軍遭難にまつわる怪談などありますから色々と伝説や謎の多い県なのかもしれません。

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山の多い青森県。このどこかに隠れ里が。 GoogleMaps

 
各地に存在する隠れ里伝説

→鹿児島県喜界島志戸桶集落に伝わる伝説

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